叶うなら、君の隣に(沖田)
真っ赤に、染まった、
自らの手を見詰める。
後悔はしていない。
きっとこうなると判っていたのだから。
これで彼女を、護れるのなら。
「……………総悟?」
呼び掛けに振り向けば、小夜は不安そうな顔をして沖田を見詰めている。
「………良かった、の?」
「何がですかィ?」
とぼけたようにはぐらかして返してみれば、案の定、「はぐらかさないで」と怒る小夜。
「だって、やらかしちゃったのは、私で、」
「そーゆー奴を斬らなきゃならねェのはてめェじゃ無くて俺なんでィ」
唇を噛み締めて、彼女は俯く。
静けさを破るように、控え目に襖が開けられる音。
「────……総悟、時間だ」
神妙な土方の声に二つ返事で頷いて立ち上がる。
不意に、ぐい、と引かれた隊服の上着の裾。
見ずとも、掴んだ手は誰のものなのか容易に判った。
「───お前は、斬っちゃいけねェ」
「私だって、捕り物に出て、殺しもしてる。なのに、」
何でダメなの?
震えた声。
泣き出しそうなそれに、何時もの明るさは無い。
「………俺が、人斬りだからでィ」
「そんなの────!」
納得いかない、そう言いかけた小夜の唇を指で押さえる。
「────これは、俺の役目なんでさァ」
悔しそうに瞳を揺らして、それでももう身動ぎもせず諦めたように、静かに頷く小夜。
その頭を、髪を梳くようにして撫でる。
「大丈夫でィ。
今更俺の何かが変わる訳じゃねェんだから。
………すいやせん土方さん、待たせちまって」
「いや」
後ろ手で襖を閉じれば、無言で前を歩いていく土方。
しかしふと足を止めて、静かに此方を振り返る。
「……………良かったのか?」
「向いてんのは俺ですぜ?」
「俺がやる事だって出来た」
「そしたらアンタがやろうとする前に小夜がやろうとしやすよ」
無言で此方を見据えてくる土方。
迷いがない事を目で訴えても、やはり何処か不満そうで。
───……事の発端は、数日前の捕り物に遡る。
戦闘の混乱や喧騒に紛れて密かに脱走しようとした一番隊の隊士二名。
幸か不幸か、小夜がそれを発見、粛正しようとするも失敗し、結果捕縛するに至った。
裏を取ってみれば、巧妙に隠していたものの攘夷派閥との黒い繋がりがあることが発覚し、小夜の不手際はその事実によって隠された。勿論、これは沖田が無理に通したからなのだが。
そして、今日がその二人の処刑の日。
切腹を言い渡された彼らの介錯を務めるのは、隊内随一の腕を持つ沖田だった。
基本的に介錯は腕の良い隊長格の人間、または一番隊の中でも精鋭とされる人間だ。本来は小夜の当番であったところを、沖田が務めると表明した為に彼女ではなくなった。
「…………俺が、護りてェから。
アイツに、介錯なんかさせたくねェんでさァ」
当番から外してくだせェよ、と沖田は言う。
土方も、そうして良いと思ってはいる。むしろ、小夜は外したいのだ。
だからこそ、今までは自分や沖田で介錯の役目を肩代わりしてきた。
「アイツが、首を縦に振ればな」
「…………何時までだって、」
代わってやる。
そう言った沖田の瞳には、本当に迷いはない。
だからこそ、土方は不安になるのだ。
いつかこの強さが折れてはしまわないだろうか?と。
「…………土方さん、もう話し掛けねェでくだせェ」
集中するから。
言われてしまえば、土方は黙ることしか出来ない。
そうして、静かに沖田は処刑の場へと向かっていく。
刀の手入れをする自分の手は、嫌に赤くて。
くらくらとしてきそうなその赤色を、それでも沖田は堪え続ける。
護るための、赤色だ。
転がっていく昔の仲間の姿を想像する。
それは、必ずと言って良いほどグロテスクで。
想像するのは自分が失敗した時と決めているから、斬れもせずにただ苦しんで死にきれずに藻掻く姿が、明瞭に脳裏に浮かぶ。
そうして、沖田は失敗しないと心に誓うのだ。
(───……こんな事、アイツにはやらせたくねェ)
要らぬ覚悟を決めるのは、自分だけで充分だ。
例えどれだけ彼女から離れた位置に立つことになったとしても。
叶うなら、君の隣に
隣に立って、支えながら護ってやりたかったけれど。
叶わないならばせめて、彼女の苦しみは減らしてやりたい。
そう決意して、沖田は今日も、仲間にすらも刃を振るう。
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上手く愛情を伝えられないだろうけど、護りたいとは思って必死なんです、この沖田は。
お題拝借
‡Silence 様
2017.10.19
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