『Break Time』
【a writer:恋 〜my friend〜】

「お待たせしました。パンケーキ四つ、お持ちしました」

店員ができたてのパンケーキをテーブルの上に並べる。虎杖と釘崎はパンケーキをガン見している。早く食べたいと目で訴えており、伏黒は涼しい顔でコーヒーをすすり、五条はスマホでパンケーキを撮っている。今日は珍しく任務も授業もない。そこで五条が虎杖達を今人気のカフェに行こうと誘った。もちろん五条のおごりである。

「さぁ、皆、食べよう!」

五条の号令で二人は目をキラキラさせた。

「「いただきます!」」

「...いただきます」

「たあんとお食べ。最初は何もかけずに食べてみて」

三人は言われた通りに何もかけないで食べる。口内に広がる蜂蜜とバターの味、そして柔らかい食感。声にならない声を上げる虎杖と釘崎。

「ふわふわしてますね」

「「「ふわふわ…!?」」」

以前パンダの匂いをお日様と表現して釘崎と真希をノックアウトさせた伏黒。今回は同級生と先生を見事にノックアウトさせました。

「次はマーガリンをぬって」

仕切り直して、五条は小皿にあるマーガリンを指差す。素直な生徒達はマーガリンをぬってから食する。

「塩気があるわね」

「これはこれで美味い」

「はーい、次はメープルシロップ」

五条は美味しい食べ方をどんどんレクチャーする。そのたびに生徒三人は美味しいと言う。最近は任務ばかりで青春を謳歌できていなかったから、今日が何もない日でよかった。可愛い生徒達の笑顔が見れて満足だ。

「言い忘れてたけど明日、任務だから」

「幸せをかみしめている時に任務の話をするな!」

「五条先生、そういう所あるぞ」

「うん、どの食べ方も美味い」

こんな楽しい日々がいつまでも続きますように。



―――Baton passing―――



【a writer:まほら 〜janitor(管理人)〜】

「……っぷっはぁーー!生き返るーー!やっぱ鍛錬した後のスポドリ最高ー!」

「生のスイカジュースってマジ最高よね。リクエストしといて正解だったわ」

「伊地知さんに奢ってもらったのはいいけどあの人大丈夫かな……目の下の隈が史上最高だったけど」

2年生との合同鍛錬の最中、学長に呼ばれた先輩達の背中を見送り、予期せぬ休憩時間が出来た1年生組は暇を持て余し、何となく自販機の周りを取り囲んだ即席カフェで体を休ませていた。

「つか、普通に考えて自販機で生ジューで凄くね?東京ってそんなに技術発達してたん?」

「流石に自販の生ジュースは聞いたことねぇよ。釘崎のオーダーで業者が開発したらしい。まだ試作段階での試験機らしいけどな」

「今のところ、1種類が限界らしいし、オマケにメンテがかなり面倒なんだって。まぁでも試作の割には結構クオリティ高いし、我儘言った手前、私もそんなに文句言えない立場だしね。これくらいでいいのよ」

糖度も高く、滑らかに喉を伝っていくように調節はされているものの、日によって冷たすぎたり逆にぬるかったりと安定しない。改良が必要とは思うものの、ある意味世間から外れているこの業界にとっての取引業者は貴重な存在。オーダーを受けてくれただけ有難い事だと釘崎は思っていた。

それからは、複数のスポドリを飲み比べる虎杖と、飲み終わったジュースをゴミ箱に捨てた後に自販機に寄りかかり、ぼっーと空を見上げる伏黒、2杯目のスイカジューを片手にスマホで写真を撮る釘崎、とそれぞれ時間を過ごす。会話はほとんど無いが、なんとなく居心地は悪くなく、穏やかな空気が流れていた。

…………その、なんとなく穏やかな空気を土足で踏み歩き空気を遮断する者もいて。

「お疲れサマンサー!!いやー沖縄って中々の暑さだよねー!干上がっちゃうのなんの。あ、これお土産ね。1年諸君にはこのシーサーの置物をプレゼント!片手に乗るほどの大きさで携帯するには抜群の軽さ!!……あ、そのダンボールの中のはダメだよ?全部僕用のお土産だから」

穏やかな天気が一瞬にして大荒れの土砂降りになるが如く現れた教師に、虎杖はお土産に興味を持ち、釘崎はおもいっきり顔を顰(しか)め、いつも通りすぎて慣れている伏黒は軽いため息を吐いた。

「ちなみにこのシーサーくん、頭のボタンを押すとーー?なんと笑いまーす!」

五条が置物の頭のボタンを押すと、シーサーの口が少しだけ動いてケタケタとくぐもった笑い声が響き結果としてさらにその場の空気を濁す。

「わっはーー!くっだらねーーー!」

「気に入ったんなら私のあげるわよ虎杖」

「えっ!?いや同じのふたつも要らねぇし!伏黒はいる?俺のやるけど」

「要らねぇ」

「いやいやちょっとちょっと、僕に対してみんな酷くない?沖縄限定品だよこれ」

「その限定品とやら、メル○リで200円で売られてるわよ」

釘崎がスマホの画面を全員に見えるよう掲げる。確かに五条が買ってきたものと同じものが1年前に1000円で出品されているが、未だに売れ残っているらしく度重なる値下げがされていた。

「うっっっわ!この人気の無さ逆に奇跡じゃね?もっと値下げねぇと売れないんじゃん?」

「この出品者のコメント欄、だれか助けてって書いてあるけど、どんだけ売れねぇんだこれ」

「あ、100円にしたら売れたわよ」

「僕が買ってきたお土産秒で出品したの野薔薇??」

悲しいなぁ寂しいなぁ、と本気なのか嘘なのかおどけてるのか分からない口ぶりで置物の頭のボタンを押しまくる五条に2度目のため息を吐く伏黒は、手のひらにシーサーを乗せて何かを考える素振りをとる虎杖が何故か気になり、声を掛けた。

「なにさっきから唸ってんだよ」

「……ん?……あぁ。なんか今度みんなで旅行行きてぇなぁなんて思って。沖縄か北海道。冬の北海道とかいいよなぁー。美味い飯たくさんあるだろうし」

「お前の脳内観光地、北海道か沖縄しかないのかよ」

「寒いのは嫌だけど、気分転換に思い切って全然違うとこにいくのも悪くは無いわね」

「よーし!じゃあ今度は僕含めて4人で北海道観光に決定!」

「なんでアンタもついてくんのよ」

「えー?生徒を護るのは教師の務めでしょ?」

「じゃがバター食いたいだけじゃないんですか」

「ひっどい恵!僕が食いしん坊みたいじゃない。多忙な僕がみんなに付き添ってあげるんだよ?感謝しなよ」

「マジ!?ありがと五条センセ!宿泊費とか交通費とかどうしよ思ってたけど、センセイいるんなら心配ねーよな」

「ん?あれ?悠仁の感謝ってそゆこと?」

普段は場を乱すのが得意な五条が少し振り回されている姿が珍しいと思いつつ、お馴染みのメンバーでどこか息抜きをするのも悪くないと思い始める伏黒。五条と楽しそうに会話する虎杖を見て、変わらない日常にひっそりと安堵した。

「みんなで旅行、きっと楽しいだろうなぁ」

冬の北海道に思いを馳せながら、虎杖は本日3本目となるスポドリのキャップを捻って開けた。



―――それはただの白昼夢。雲ひとつない晴天に降る雨のような、矛盾が生じたズレによる夢想に過ぎないもの。それでも願う。今は叶わなくとも、いつかきっともしかしたら、と。
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